建築的提案は、他者の様々な見解を受け入れることができるシステムを持っていなければならない。ただし、多くの人々の意見を吸収してはみたが、結果として凡庸な建築になるようでは、住民参加型の建築とは言えない。
だから、「邑楽」でも、まず建築のシステムを作ることで、エンド・ユーザーと話す際の共通言語を作れると考えていた。ただし、「邑楽」の場合は、「
埼玉」や「函館」に比べてスケールの小さな建築だ。そして、様々な小単位の空間が集合したコンプレックスだったので、一辺750のキューブを9つ合わせた一辺2250の大きさを1ユニットの基本単位にしている。そのシステムが、壁や天井だけでなく、床に対しても適用されている。そのユニットは5センチ角の非常に細いスティール角パイプで組み上げようとしている。
さらに、施工方法に関しても簡便化を目指して、オーヴ・アラップ事務所に相談してみたら、面白い提案が出てきた。それは、鉄骨運搬用の金属バンドでストラップする方法だ。日本中の梱包屋や運送屋が所有している締め付け機械を利用して、フレームを一体化することが可能である。しかも、30秒で締め付けてしまうので、今まで溶接していた時間と手間は、一体、何だったんだという感じさえする。
仮に将来、リサイクルする際にも、床を含めた地中梁まで同じシステムでできているので、基礎も含めて簡単に切断、解体することが可能だ。
ただし、幾らシステムが充実していたとしても、それで従来と同じような空間が最終的にでき上がっていたとしたら、ぼくは面白いと思わない。従来と違う空間体験を、邑楽町の住民と共にできるという確信みたいなものが必要だ。住民の人たちも、それを考え、楽しむことができる。それが、一緒に作っていく時の醍醐味のようなものだ。