ソウル江南ハウジング
この計画は韓国ソウルの南、江南区に建つ低所得者層向けの集合住宅の計画である。
1970年代、韓国でも急激に上昇する都市部の人口をみたすため、日本と同様、標準家族のための住宅が供給されてきた。しかし、少子高齢化が進んだ現在、住宅に住む世帯人数は急激に減少し、同時に高齢者の独りまたは二人暮らしが急増している。2030年には人口の1/4が高齢者になるとも予想される現状においては、従来の”一住宅=一家族”というシステムはほぼ崩壊しているに等しい。
我々はそんな21世紀の住宅のあり方として、個々のプライバシーを保つと同時に地域社会と共存できる住宅のプロトタイプを提案した。
その特徴は住宅の多機能化である。現在、住宅でのアクティビティは多様化してきている。もはや住宅は、ただ単に家族が住み子供を育てる場所にはとどまらない。その多様なアクティビティを通して住宅を地域社会に開き、例え独り暮らしであったとしても、彼らが孤立しないような新しいシステムをつくることができるのではないだろうか。
そんな住宅を作るために、我々は、韓国の伝統的な空間である"sarangbang"と"madang"の2つの空間をこの計画に取り入れた。
かつて、"sarangbang"とは家の主人が客人を迎えるときに使う客間であり、"madang"とは通りから住宅に入るまでの中庭のことであった。我々はそれを"sarangbang"=多様な活動のための部屋、”madang”=その活動をつなぐ場所、と読み替えた。
まず各住戸の入口に"sarangbang"を設け、"Madang"と呼ぶ通路で各住戸をつないだ。そうして出来る低層の住棟を平行配置し、2棟で1セットとする。2棟の中心には”common field”を配置し、住戸プランは”common field"を軸に鏡像反転とした。そして、その低層の住棟の上にタワーが建つ。タワーの後ろには日照条件の関係で広場ができる。2本の低層住棟、common field、タワー、広場からできる空間を1クラスターと呼びコミュニティーの単位とする。
”common field”には”common kitchen”や”small library”が散らばり、クラスター内部の住人達が共用で使える。広場はsports fieldやplay groundとなる。さらに、各クラスターは、保育施設や老人施設、共同作業室、図書室といったコミュニティー施設を擁し、これらの施設はクラスター内のみならず街区全体のコミュニティーの中心として機能する。
今回の我々の提案は”一住宅=一家族”システムに変わる新しい住宅である。地域にひらかれ、「地域社会圏」に基づいた住宅の提案である。