名古屋造形大学
■郊外型キャンパスから都市型キャンパスへ
名古屋造形大学は、愛知県の美術大学である。小牧市から名古屋市に移転した。 名古屋城のある名城公園のすぐ隣である。
課題は大きく3つあった。1つ目は都市中心部への移転ため、狭い敷地に1000人もの学生をどのようにコンパクトに納め、どのような都市型の美術大学をつくるのか。2つ目は敷地直下に地下鉄名城線の名城公園駅があり、敷地を南北に分断、駅に大きな荷重はかけられない。建築が大きく2つに分かれてしまうため、どのような建築空間をつくるのか。3つ目は周辺との関係である。この地域は元々、国の官舎や市営住宅が立ち並ぶエリアであった。建物の老朽化に伴い用途転用され、大学が誘致され、新たに集合住宅が建ち始めるような、大きな変化をしている。周辺には戸建住宅が立ち並び、古い商店街がある。ここで生活していた人と、新たに参加する人たちが混在するような地域である為、近隣の地域社会とどのような関係を築けるか、どのように地域に貢献できるかが大きな課題であった。
■104m×104mの巨大なワンルーム「スタジオ」
既存キャンパスは研究室や専門コース、各学年が教室ごとに分けられ、廊下などの共用部からアクセスする典型的な建物構成であった。新キャンパスではこの教室を無くした。104m×104mの巨大なワンルーム空間である「スタジオ」が研究室であり、学生たちの創作の場とした。学生たちはスタジオをシェアリングして使う。また、スタジオは間仕切りも無く完全にオープンである。学生や先生の活動が分野ごとに閉じること無く、相互に関係しあうことでき、全ての活動にいつでも参加可能である。スタジオの中央には先生と助手の拠点であるスタジオオフィスを配置した。ここにも先生たちの個室や研究室は無く、背の低い家具で緩やかに仕切り、スタジオと連続させるように計画した。スタジオ空間全体で様々な活動がグラデーショナルに広がることを目指した。
■まちの一部「アートストリート」
スタジオの下は地下鉄を避けるように4つの棟に分け、それぞれの棟にはアリーナ、ライブラリー、カフェテリア、ギャラリー、ホールなど地域住民も利用しやすいものを配置した。4つの棟は孔が空いた格子壁で包まれる。格子壁はPCと鋼板をハイブリットした構造的な耐震要素であり、直射日光を遮り自然通風を取り込む環境装置でもある。夜には内部から光が漏れ、周囲を優しく照らす灯りとなる。繊細に作られた継ぎ目のない格子状のファサードがこの街の新たな風景をつくる。
4つの棟は最上部でスタジオによって繋がれ、最大スパン40mの巨大なゲートのような、あるいは橋のような建築となる。その橋桁の下、中央を貫くのが「アートストリート」である。大屋根がかかった半屋外空間であり、誰もが入ることができる商店街のような場所である。アートストリートには地下鉄への荷重制限をクリアできる低層の見世を配置した。見世は学生や先生の作った作品をプレゼンテーションする場所であると同時に、作品の販売や地域住民・地域の企業や他大学との共同創作の場でもある。アートストリートがまちのように賑わい、地域に開かれた大学としての中心となればと思う。
備考
家具:藤森泰司アトリエ
サイン:廣村デザイン事務所
照明:岡安泉照明設計事務所
音響:永田音響
ファブリック:安東陽子デザイン
植栽:GAヤマザキ
撮影:大野繁
山本理顕設計工場(外観写真)